届きもしない手紙。
前略
届きもしない手紙を書くことに、いったいどれだけの意味があるのでしょう。
……人間は、いえ、自分は、意味というものを求めすぎている気もします。
意味のないことなんてない。
そういう言いわけで、終わらせたいのですかね。
月並みですが、お元気ですか?
いまは、受験勉強に熱中しているところでしょうね。
あなたは勉強ができないほうではないけれど、まだ自分でそのことに気がついていないから、受かろう受かろうとそれだけ考えてがむしゃらに勉強していますね。それこそ、過去問で全教科100点とるまで。
入学したら、そこまでしたひとはいなかったことに気づいておどろくんじゃないですか?
どうしてそんな予言者みたいなこと言えるかって、私は、五年後のあなただからですよ。
過去の自分へ手紙を書く。そんな野暮ったいこと死んでもするか、とあなたは歯を食いしばっているでしょうね。だから、おどろいてるかもしれない。
私も、どうして筆をとったのかよくわかりません。ただ、寂しい帰り道、夕暮れどきのくたびれた青を見て、あなたに語りかけたくなった。あるいは、それだけのことかもしれません。
おとなになる、ということは、あんがい野暮なことですよ。歳を重ねれば重ねるほど、純度は低くなってゆく。あなたも、翌年書く小説で言いますよ。「(歳を重ねれば重ねるほど)埃にまみれてゆく。」って。
あなたは「ここから出たい」と必死ですね。
「ここ」というのは、高崎という土地だけではなく、あなた自身の状況も指しているのだと思います。
でも、どこに行っても「ここ」はありますよ。
と言うか、自分のいる場所が「ここ」なんです。
居場所は「ここ」しかないと気づいた。
いまの私は、ね。
お説教じみます。
あなたは人生のつらいことを経験しきったと思っているけれど、これからもっともっと、つらいことはたくさんありますよ。二度とくり返したくないときを、何回も歩むと思います。
そんなとき、つらいつらいと喚くか、こうしてしずかに手紙を書くかは、あなたにお任せします。
でも、楽しいこともありますよ。
高校生活は、思い描いてたほどぱっとはしないけれど、穏やかで、落ち着いていて、心地よいものです。
……ぱっとは、しないけれどね。
15歳のあなたは純度が高いですね。
見れば見るほど、とてつもなくうつくしい。(もちろん、言わずもがな、容姿の問題ではないですよ。)
どうすれば、私もまたきらめくことができるか。
いま、それを必死に考えているところです。
私は15歳のあなたを尊敬しているんです、じつのところ。
うまく書けません。
でも、なんとなく、言いたいことは言えた気がします。
また、いつか、気が向いたら書きますね。
手紙という名の、回顧録を。
後略