柳なつきのブログ

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問いで救済できるのか?/映画『リリイ・シュシュのすべて』

「少年少女のころというのは、傷つく存在なのか。」

 あのころ、窮屈な制服に身を包みながら、こうは自問しなかっただろうか。「どうして傷つけてしまうのだろう。どうして傷つけてしまうのだろう。」

 そしていまはもう少し、違ったかたちで問いを思う。

「少年少女というのは、どうして傷つかなければいけないのだろう。」

 

 このみっつの問いのうち、どれが一番、「救済」に結びつくだろうか。

 

リリイ・シュシュのすべて』を、観た。再鑑賞。

 このみっつの問いは、『リリイ・シュシュのすべて』を観て感じたことだ。

 

 これらの問いは、一見似ているけれど非なるものだ。

 なにが違うって性質が異なる。

 

「少年少女のころというのは、傷つく存在なのか。」

 これは、普遍的な現在。

 普遍的な現在というのは、ちょっと乱暴に言ってしまうのならば、私もあなたも、学校では傷なんかと無縁な小学生のAちゃんもむかし学校で傷を受けた大学生のBくんも学生時代に傷ついたことなんてないサラリーマンのCさんも、みんなが理解できること。実感としてわからずとも、理屈はわかるということ。それはつまり、経験の有無にかかわらず、ということだ。定理に近いと思う。「内角の和は90度である。」なんて、数学の定理と比べたら数学者のひとがどう思うかわからないけれど、でも私はそう思う。定理も「定理」である以上、きちんと検証がなされているはず。定理というのは、「ある理論体系において、その公理や定義をもとにして証明された命題で、それ以降の推論の前提となるもの。」(デジタル大辞泉)ということだから。「少年少女のころというのは、傷つくものだ。」という命題も、たとえばエリクソンのアイデンティティ説なんかで、証明、されようとされているのではないだろうか。その証明の是非や真偽は置いておくとしても、すくなくともこの「少年少女のころというのは、傷つく存在なのか。」という文章は、命題たりうるのではないか、と思う。

 

「どうして傷つけてしまうのだろう。どうして傷つけてしまうのだろう。」

 これは、個人的な過去。

 この問いはあくまで、「私」の問いだ。ある一点においてのみ存在しうる私、つまり2004年でも2006年でもいいのだけれどとにかくX年において群馬県某市の某中学校に通っていた「私」、その自我が感じて思った問いに過ぎない。過ぎない、というと少し突き放しているみたいだ。もちろんこの問いはすごく大切だ、すくなくとも「私」の人生においてとても強い意味を持つ。なにより、あのころの「私」にとって大切だ。個人的には、ずっといっしょに歩みたい問いだ。でもそれは、ほんとうに個人的な範疇を出ない。「私」がこう「感じた」からこう「思う」という、それだけのことに過ぎない。要は、「日記」のたぐいである。

 

 普遍的な現在、というのはいくぶん論理的すぎる気がする。立派だけれど無味乾燥だ。生身の人間を、なかなかすくえない。

 個人的な過去、というのは似たような経験をしたひとには共感を呼ぶかもしれないが、それ以上でも以下でもない。それ以外のひとを、すくえない。

 

 そして思考は、ひとつ進む。

 

「少年少女というのは、どうして傷つかなければいけないのだろう。」

 これは、倫理的な未来。そして、過去現在未来すべてをつらぬく数直線でもある。

 ひとことで言ってしまえば、この問いを問うことで未来が変わる可能性がある、ということだ。それは現在が変わるということと同義だ。でも私は、あえてそれを未来と呼びたい。まだ来ていない、そのとき。そこにあると思い込み、変えられると思い込んで、結果的に現在を変えることのできる未知の時間。

 私たちのように傷ついた少年少女というのはたしかにいて、私たちはどうしても問うてしまうものだと思う、「どうして私が傷つかなければいけないのだろう。」そして時間が経っても思うかもしれない、「どうして私が傷つかなければいけなかったのだろう。」それはそれ自体、必要な問いだ。しかしそれを、一歩押し広げてみたら?「少年少女というのは、どうして傷つかなければいけないのだろう。」になるはず。そういう意味で、この問いは過去現在未来をつらぬいているのだ。

 そして、未来につながる。きっと。

 

 傷つく少年少女が減ったらいい、とは思わない。

 けれど、最後にみんな少し優しくなれるような、そんな世界だったらいいのにな、とは思う。

 そのために、問いは救済につながる可能性が少しでもあるのか、延々検証してみたのだ。

 

 これが、『リリイ・シュシュのすべて』です。

 すっごく、美しいです。

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